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コラム

新卒の初任給と、5年働いた自分の給料がほぼ同じだった話|PT/OT/STの昇給が止まる本当の理由

結論

理学療法士の初任給は全産業平均よりやや高いものの、その後の昇給カーブは診療報酬という公定価格に縛られて緩やかになります。5年目で感じる「上がらなさ」は気のせいではなく、制度構造そのものが原因です。

4月。新しく入ってきた新人の指導係を任された。

一緒に評価に入って、記録の書き方を教えて、患者さんへの声のかけ方を教えて。慣れない環境で緊張しているのが分かるから、なるべく丁寧に、なるべく分かりやすく。自分が新人だった頃を思い出しながら、時間を割いて教える。

その帰り道、ふと思った。

「この子の初任給、自分の給料と、そんなに変わらないんじゃないか」

調べてみたら、その予感はだいたい当たっていた。そして、その事実を知った瞬間、何かがすっと冷めていく感覚があった——。

もしあなたが、この感覚に心当たりがあるなら。この記事は、その違和感が「気のせい」でも「わがまま」でもなく、この職種の構造そのものから生まれているという話です。

私自身、理学療法士として5年働いた後、経理へ転職しました。当時を振り返ると、辞める決め手になったのは、劇的な出来事ではありませんでした。ある日、給与規程を開いて、10年後の自分の年収を電卓で計算してみた。ただそれだけです。出てきた数字を見て、「ああ、そういうことか」と、妙に静かに納得してしまった。あの瞬間が、実質的な転機だったと思っています。

まず、事実を確認する

感情論に入る前に、数字を並べます。

厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士の初任給は約24万6,300円。ボーナスを含めた初年度の推計年収は約297万5,500円です。

一方、理学療法士全体の平均年収は約443万円(月収30.9万円・ボーナス71.7万円)。平均年齢は35.6歳、平均勤続年数は7.4年です。

つまり、こういうことになります。

月収 年収
1年目(初任給) 約24.6万円 約297万円
全体平均(平均7.4年勤続) 約30.9万円 約443万円

一見すると、7年働けば月6万円上がる。悪くないように見えます。

でも、ここに落とし穴があります。

「初年度の年収が低い」のは、ボーナスが満額出ないから

初年度の年収が297万円と極端に低く見えるのは、入職1年目はボーナスが満額支給されないからです。実際、初年度のボーナスは2万円程度という数字もあります。

つまり、1年目と2年目の間には「ボーナスが満額出るようになる」という大きな段差があり、これが年収を一気に押し上げます。ある調査では、キャリア初期から4年目までの間に年収が約63万円増加するとされていますが、その主因は月収の伸びではなく、ボーナスが満額支給されるようになることだと説明されています。

ここが重要です。あなたが3年目から5年目にかけて感じている「上がらなさ」は、錯覚ではありません。 最初の数年の伸びは、実力や貢献度の評価ではなく、単に「ボーナスの計算方法が変わっただけ」の可能性が高い。そしてその段差を越えた後は、上がり方が一気に緩やかになります。

この記事の核心:PTの初任給は、実は「高い」

ここからが、多くの人が見落としている部分です。

理学療法士の平均初任給約23.9万円〜24.6万円という数字を、産業全体の平均初任給(約22.8万円)と比べると、理学療法士の初任給はむしろやや高い方なのです。

つまり、こういう構造になっています。

「令和6年賃金構造基本統計調査」の勤続年数階級別データで確認すると、この差の縮まり方がより具体的に見えてきます。初任給の時点では、全産業平均22.8万円に対して理学療法士24.6万円と、+1.8万円理学療法士の方が高い状態です。ところが勤続5〜9年の階級区分(理学療法士の平均勤続年数7.4年に近い区分)で比べると、全産業平均30.37万円に対して理学療法士30.9万円と、差はわずか+0.53万円まで縮小しています。

初任給と勤続7年前後の給与差の変化(月収)

初任給(勤続0年) 全産業平均 22.8万円 理学療法士 24.6万円 勤続7年前後 全産業平均(勤続5〜9年の平均) 30.37万円 理学療法士(勤続7.4年) 30.9万円
出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」第7表(勤続年数階級・企業規模計・男女計)。「勤続7年前後」は勤続5〜9年区分の平均値であり、7.4年ちょうどの数値ではありません。

なお、これより先(勤続15年目以降など)で全産業平均が理学療法士を上回る「逆転」が起きるかどうかについては、統計の区分(勤続年数ベースか経験年数ベースか)が情報源によって異なり、現時点で正確な比較データを確認できていません。ここでは、初任給時点と勤続7年前後の2時点で、差が大きく縮まっているという事実にとどめておきます。

新卒の頃、「国家資格を取ったから、そこそこの給料からスタートできる」と感じた人は多いはずです。それは間違いではありませんでした。ただ、その優位性は、時間とともに目減りしていく類のものだった、ということです。

そして5年目のあなたは今、まさにその「目減りしていく途中」にいます。

電卓を叩いてみると、もっとはっきりする

ここで、少し生々しい計算をしてみます。

仮に、あなたの職場の定期昇給が月3,000円だとします(リハビリ職では珍しくない水準です)。年間で3.6万円、ボーナスへの反映も含めれば年収ベースで5万円前後の増加になります。

これを10年続けると、どうなるか。

経過年数 月給の増加分 年収の増加分(概算)
3年後 +9,000円 +約15万円
5年後 +15,000円 +約25万円
10年後 +30,000円 +約50万円

10年働いて、年収が50万円増える。月額に直せば約4万円です。

この数字を見て「思ったより上がる」と感じるか、「10年でこれか」と感じるか。ここが、一つの分岐点になります。

そして忘れてはいけないのが、この10年の間に、物価は上がるということです。仮に年1%の物価上昇が続けば、10年で約10%。今の年収443万円の生活水準を維持するだけでも、44万円の昇給が必要になります。つまり、月3,000円の定期昇給は、実質的には「現状維持がやっと」のラインかもしれない、ということです。

もちろん、これはあくまで一つのモデルケースです。職場によって昇給額は違いますし、役職につけば話は変わります。ただ、自分の職場の数字で同じ計算をしてみることには、大きな意味があります

なぜこの構造が生まれるのか

理由は明確で、リハビリ職の給与原資が診療報酬という国が決めた公定価格に紐づいているからです。

一般企業なら、売上が伸びれば給与に反映できます。営業なら契約を取れば歩合がつく。経理なら会社の利益が増えれば賞与が増える。「頑張り」と「報酬」の間に、ある程度の連動性があります。

でもリハビリの現場では、あなたが1日20単位を丁寧にこなしても、患者さんの回復に真剣に向き合っても、そこから生まれる収益の上限は制度で決まっています。1単位あたりの点数は、あなたの技術レベルによって変わりません。10年目のベテランが行うリハビリも、1年目の新人が行うリハビリも、算定される点数は同じです。

この「技術に価格差がつかない」という構造が、昇給カーブを平坦にしています。

もう一つの現実:役職の椅子が足りない

「経験を積んで、主任や科長になれば上がる」——確かにその通りです。実際、勤続15年以上になると年収500万円を超えるケースも増え、役職者では年収約510万円という数字も出ています。

ただ、ここで冷静に考えてほしいことがあります。

その椅子は、何席あるでしょうか。

リハビリテーション科に療法士が20人いたとして、主任のポストは2つか3つ。科長は1人。単純計算で、8割以上の人は役職につかないまま、キャリアを重ねていくことになります。

そして、その椅子が空くのは、上の世代が辞めるか定年を迎えるときです。今30代の主任がいる職場で、あなたが27歳なら、その席が空くのは10年後、15年後かもしれません。

「頑張れば上がる」は嘘ではありません。ただ、その「頑張り」が報われる確率は、多くの人が漠然とイメージしているより、ずっと低い。

同窓会で、少しだけ気まずくなる理由

養成校の同期ではなく、高校や大学の同期と久しぶりに会ったとき、なんとなく給料の話題を避けたことはないでしょうか。

新卒の頃は、むしろ逆でした。「国家資格を持ってるっていいな」「就職先に困らないでしょ」と言われる側だった人も多いはずです。実際、初任給で比べれば、リハビリ職は全産業平均をやや上回っていました。

でも20代後半になると、この関係が少しずつ変わり始めます。

一般企業に就職した同期の中には、成果次第で20代のうちに年収500万円に届く人が出てくる。転職して年収を上げた人も出てくる。一方でこちらは、真面目に働いて、勉強会にも出て、後輩の面倒も見ているのに、年収は400万円台前半のまま。

この「追い越されていく感覚」は、能力差ではなく、乗っているレールの傾きの差です。

同じスピードで走っていても、傾きが違えば、たどり着く高さは変わります。そして厄介なことに、傾きの差は、最初のうちは目に見えません。5年、10年と経って、はじめて距離として現れます。

だからこそ、5年目という時期にこの構造に気づくことには、意味があります。まだ選択肢が多く残っている段階だからです。

「新人指導」という、報われにくい仕事

冒頭の話に戻ります。

新人の指導を任されること自体は、信頼の証です。実際、5年目のあなたは、1年目にはできない仕事をたくさんしているはずです。

これらは全部、組織にとって価値のある仕事です。あなたがいなければ、新人はもっと時間をかけて育つことになるし、現場はもっと混乱します。

でも、これらの仕事には診療報酬の点数がつきません。あなたが後輩を育てても、その分の売上は立たない。だから、給与にも反映されにくい。

「教えるのは当たり前」「先輩なんだから」という空気の中で、その労力は静かに無償化されていきます。これが、多くの中堅リハビリ職が抱えるモヤモヤの正体です。

じゃあ、どうするか

ここまで読んで、暗い気持ちになった人もいるかもしれません。でも、この構造を正確に理解することには、大きな意味があります。

「自分の努力が足りない」という誤解から、自由になれるからです。

昇給しないのは、あなたの技術が低いからでも、頑張りが足りないからでもありません。制度がそうなっているだけです。この事実を受け入れた上で、取れる選択肢は3つあります。

選択肢1:制度の中で、有利なポジションを取りにいく

同じリハビリ職でも、給与体系が違う職場に移る方法です。

例えば公立病院に移れば、地方公務員として医療職給料表が適用され、年功序列で着実に上がっていく仕組みに乗れます。しかも初任給の号俸算定には「同職種の実務経験年数」が加味されるため、5年の臨床経験がそのまま待遇に反映されやすい。

「異業種に出るのは怖い」「資格は手放したくない」という人には、現実的な第一歩になります。

→ 詳しくは「理学療法士から公務員へ|『行政職』だけじゃない、実は3つのルートがある」で解説しています。

選択肢2:報酬と成果が連動する世界に移る

「頑張った分が反映される仕組み」を求めるなら、成果連動型の職種を検討する価値があります。

不動産営業のように歩合の比重が大きい職種では、1年目は300万円台でも、5年目には700万〜1,000万円に到達する人もいます。ただし当然、成果が出なければ上がりません。この「変動幅の大きさ」を受け入れられるかどうかが分かれ目です。

逆に、経理のように資格と実務経験が階段状に積み上がっていく職種を選べば、リハビリ職より昇給カーブが立った状態で、かつ安定性も確保できます。

→ 職種ごとの年収の伸び方の違いは「転職で年収はどれくらい変わるのか|職種別リアルな増減額まとめ」で整理しています。

選択肢3:臨床経験そのものを高く売る

あまり知られていませんが、リハビリ職の臨床経験が「そのまま」評価される異業種もあります。

医療機器メーカーの営業や学術職では、現場でその機器を使っていた経験、病院の組織構造への理解、医師や看護師との会話のしやすさが、そのまま採用の判断材料になります。「未経験だけど、他の未経験者より圧倒的に有利な未経験」というポジションで戦える領域です。

→ 「PT/OT/STからMR・医療機器営業へ|臨床経験が最も高く売れる転職先」で詳しく書いています。

「でも」に、先に答えておく

この話をすると、必ず出てくる反論があります。それぞれに、正直に答えます。

「認定・専門理学療法士を取れば上がるのでは?」

資格手当がつく職場はあります。ただし金額は月数千円〜1万円台が中心で、取得までにかかる時間と費用を考えると、投資対効果は決して高くありません。「給与のために取る資格」ではなく「臨床の質を上げるために取る資格」と割り切った方が、精神衛生上も健全です。

「訪問リハに移れば上がるのでは?」

これは事実として、給与水準が上がるケースが多い選択肢です。ただし、移動時間・自己管理の負担・件数へのプレッシャーなど、別の負荷とセットになります。「同じ働き方で給料だけ上がる」わけではないことは、押さえておく必要があります。

「副業すればいいのでは?」

有効な選択肢の一つです。ただし、本業の勤務規定を確認する必要があるのと、体力的な負荷が加わることは考慮すべきです。すでに1日20単位こなして疲弊している状態で、さらに時間を売る方向に進むのが最善かは、一度立ち止まって考える価値があります。

「そもそも給料のために働いてるわけじゃない」

これは、本当にそう思えているなら、何より強い答えです。この記事は、その考えを否定するものではありません。ただ、「そう思い込もうとしている」場合は別です。その違いは、自分にしか分かりません。

動かないという選択も、選択のうち

誤解しないでほしいのは、この記事は「今すぐ辞めろ」と言っているわけではないということです。

臨床が好きで、患者さんと向き合う時間に価値を感じていて、給与以外の部分で満たされているなら、それは十分に幸せなキャリアです。給料だけがすべてではありません。

ただ、もし今あなたが、

という状態にあるなら、それは「制度の天井が見えた」という、極めて正確な認識です。気のせいではありません。

そして、その天井を認識した上で、それでもここに残ると決めるのと、天井に気づかないまま10年経つのとでは、まったく意味が違います。

次にやるべきこと

まず、自分の職場の給与規程を確認してみてください。「昇給は年◯円」「主任の役職手当は月◯円」という数字が、就業規則や給与規程に書かれているはずです。

そして、それを10年分、電卓で計算してみる。

多くの人が、この計算を一度もしないまま働いています。でも、この数字を直視することが、すべての判断の出発点になります。10年後の年収が納得できる金額なら、迷わず今の場所で頑張ればいい。納得できないなら、そこから初めて「じゃあどうするか」を考えればいい。

自分に合う方向性が分からない人は、当サイトの「異業種転職タイプ診断」も使ってみてください。8つの質問に答えるだけで、あなたの志向に近い職種の方向性が2分でわかります。

新人に仕事を教えるあなたの5年間は、確実に価値のあるものです。それが今の給与明細に反映されていないだけで、価値がないわけではありません。その価値をどこで発揮するかは、これから選べます。

一人で悩まず、まずは話を聞いてみるのも一つの方法です。→ エージェントを探す

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この記事を書いた人

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